真空ダイカストを採用しているにもかかわらず、加工後にガス巣が見つかる、あるいは気密試験の不良がなかなか減らない。こうした場合、最初に「真空が十分に効いていないのではないか」と考えることがあります。
しかし、真空装置が付いていることと、溶湯がキャビティを充填するタイミングで実際に空気を排出できていることは同じではありません。
設定画面に表示される真空値だけを見ても、バルブがいつ開き、どのタイミングでキャビティ内の圧力が下がり、溶湯がゲートを通過するときにどのような状態になっていたのかまでは分かりません。
そのため、真空を使っているのにガス巣が残る場合は、到達真空値をさらに改善しようとする前に、真空波形、射出タイミング、シール状態、離型剤、射出プロファイル、ゲート・オーバーフロー・排気の状態を順番に切り分けることが重要です。
1. 真空装置があるだけでは、ガス巣は減らない
真空ダイカストの目的の一つは、溶湯充填時にキャビティ内へ巻き込まれる空気を減らすことです。
ただし、真空装置が稼働していても、次のような状態では十分に機能していない可能性があります。
- 真空引きの開始が遅い
- バルブの作動タイミングが安定していない
- 真空経路に漏れや詰まりがある
- 金型から外気を吸い込んでいる
- 充填挙動によって、ベントや真空経路が十分に排気する前に溶湯で閉じられている
- 射出条件によって充填中の巻き込みが増えている
ここで重要なのは、
「真空装置が動いているか」ではなく、「必要なタイミングでキャビティ側に真空が効いているか」を確認することです。
設備の有無だけでは、ガス巣対策が成立しているかどうかは判断できません。
2. 真空度の数値より先に、波形とタイミングを確認する
真空状態を確認するとき、最低到達圧力だけを見て良否を判断すると、問題を見逃すことがあります。
確認したいのは、真空圧力がいつ下がり始め、充填中にどのように変化したかです。
特に、次のタイミングを同じ時間軸で確認します。
- 真空引き開始
- 低速射出開始
- 高速射出への切替え
- ゲート通過
- キャビティ充填
- 真空バルブ閉止
たとえば、最終的な真空値が安定していても、十分な真空状態になる前に高速充填が始まっていれば、実際の充填時には期待した排気効果が得られていない可能性があります。
逆に、真空値そのものだけを見ると問題があるように見えても、欠陥発生位置や射出波形との関係を確認すると、別の要因が支配的である場合もあります。
したがって、現場では、
最低真空値だけでなく、真空波形と射出波形を同じ時間軸で比較する
ことが有効です。
3. 真空が立ち上がらない・安定しないときに確認する場所
真空波形がショットごとにばらつく、あるいは立ち上がりが遅い場合は、設定値を変更する前に真空経路そのものを確認します。
真空バルブ
バルブの開閉が安定しているか、固着や摩耗、溶湯付着がないかを確認します。
設定上は同じタイミングでも、実際の機械動作が遅れていれば、波形にはその影響が現れます。
真空配管・ホース・フィルタ
配管の接続部、ホース、フィルタ、タンクなどに漏れや詰まりがないかを確認します。
真空ポンプ側では正常に見えても、金型側まで同じ状態が伝わっているとは限りません。
金型のシール状態
金型構造に応じて、分割面、スライド、エジェクターピン周辺など、外気を吸い込む可能性のある箇所も確認します。
金型側から外気を吸い込んでいる場合、ポンプ能力や設定値だけを変更しても改善につながりにくくなります。
排気経路
ベントや真空ランナーにアルミ付着、離型剤残渣、焼付きなどがないかも確認します。
排気経路の有効断面が変化すれば、同じ設備・同じ設定でも実際の排気状態は変わります。
4. 真空が正常でもガス巣が残る場合に確認すること
真空波形が安定しているからといって、ガス巣の原因を真空系から完全に切り離せるわけではありません。
同時に、真空以外の発生要因も確認する必要があります。
離型剤と水分
離型剤のスプレー量や乾燥状態が変化すると、金型表面に残る水分や加熱時に発生するガスの状態も変わります。
特に、スプレー条件を変更した直後から不良傾向が変わった場合は、真空設定より先に変更履歴との関係を確認します。
スリーブ内の溶湯挙動
キャビティ側の真空が正常でも、スリーブ内で溶湯が大きく波立ち、空気を巻き込んでいれば、その影響が後工程まで残る可能性があります。
低速射出の状態や、低速から高速への切替え位置についても、真空とは別のデータとして確認する必要があります。
ゲート・オーバーフロー・排気
欠陥が毎回ほぼ同じ位置に出る場合は、その位置と溶湯充填方向、最終充填域、オーバーフロー、排気経路の関係を確認します。
真空装置が正常であっても、金型内の流れが適切でなければ、局所的なガス巻き込みが残る場合があります。
射出プロファイル
真空条件を変更していないのに不良が増えた場合でも、射出条件、切替え位置、ゲート状態などが変化していないかを確認します。
一つの条件だけを見るのではなく、不良が増え始めた時点の前後で何が変わったかを追うことが重要です。
現象ごとに、まず何を見るか
以下は原因を断定するための表ではなく、最初に確認するデータを整理するための目安です。
| 現象 | 先に確認するもの |
|---|---|
| 真空波形がショットごとにばらつく | 真空バルブ、配管、シール状態、排気経路 |
| 真空波形は安定しているが、巣が同じ位置に出る | 欠陥位置、ゲート、オーバーフロー、最終充填域 |
| 離型剤条件の変更後に不良が増えた | スプレー量、乾燥状態、変更履歴 |
| 射出条件の変更後に不良が増えた | 低速射出、高速切替え、射出波形 |
| 加工後に初めて巣が見つかる | 欠陥深さ、加工代、加工位置との関係 |
5. 条件を変える前に確認する順序
真空を使用しているにもかかわらずガス巣が残る場合は、次の順序で確認すると原因を切り分けやすくなります。
① 欠陥位置と再現性
最初に、欠陥が毎回同じ位置に出るのか、位置がばらつくのかを確認します。
位置情報は、金型側、流動側、溶湯管理側のどこから確認するかを決めるための手がかりになります。
② 真空波形
最低真空値だけでなく、真空の立ち上がりとショット間のばらつきを確認します。
③ 射出波形との時間関係
真空波形と射出波形を並べ、真空が必要なタイミングで実際に効いているかを確認します。
④ バルブ・配管・シール
波形に異常があれば、設備設定だけでなく実際の真空経路を点検します。
⑤ 離型剤・水分
設備側に異常がなければ、離型剤条件や乾燥状態、直近の条件変更を確認します。
⑥ 射出・ゲート・オーバーフロー・排気
欠陥位置と照らし合わせながら、充填挙動と金型側の排気条件を確認します。
⑦ 条件変更は一つずつ行う
複数の条件を同時に変えると、どの変更が結果に影響したのか判断できなくなります。
確認した仮説に基づき、変更する条件と評価方法を決めてから試験します。
サプライヤーに確認したいデータ
海外サプライヤーから、
「真空ダイカストを使用しています」
と説明を受けただけでは、実際の工程状態までは分かりません。
ガス巣や気密不良が問題になっている場合は、少なくとも次の情報を確認したいところです。
- 欠陥位置マップ
- 真空波形
- 射出波形
- 真空バルブの動作状況
- 不良発生前後を比較できる複数ロットの工程データ
- 離型剤や射出条件などの変更履歴
設備仕様書だけではなく、実際の量産データと不良発生位置を対応させて確認することが重要です。
まとめ
真空ダイカストを採用していてもガス巣が残る場合、最初に真空設定値を変更するのではなく、真空が必要なタイミングで実際に機能しているかを確認します。
特に重要なのは、最低真空値だけを見るのではなく、真空波形と射出波形を同じ時間軸で確認することです。
真空波形に問題がなければ、バルブやシール、離型剤、射出プロファイル、ゲート・オーバーフロー・排気へと確認範囲を広げます。
この順序で確認することで、真空度だけを繰り返し変更することを避け、ガス巣の原因をより体系的に切り分けやすくなります。
よくある質問
Q1. 到達真空値を改善すれば、ガス巣は必ず減りますか。
必ずしも到達真空値だけで決まるわけではありません。真空が立ち上がるタイミング、金型のシール状態、射出条件、ゲート・オーバーフロー・排気なども影響します。最低真空値だけではなく、実際の充填時にどのような真空状態になっているかを確認します。
Q2. 真空値が安定しているのに、なぜガス巣が残るのでしょうか。
真空で低減できるのはガス発生要因の一部です。離型剤や水分、スリーブ内での巻き込み、射出プロファイル、金型内の流れなどが影響している場合は、真空値が安定していてもガス巣が残ることがあります。
Q3. サプライヤーには何のデータを要求すればよいですか。
真空値だけではなく、真空波形と射出波形、欠陥位置マップ、不良発生前後を比較できる工程データを確認します。設備があるかどうかではなく、実際の量産時に真空がどのように働いているかを見ることが重要です。